アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)と心不全

アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor; ARNI)は心不全に対する"fantastic four"の一つで、商品名としてはエンレスト®などが慢性心不全と高血圧症に対して保険適応となっている。エンレスト®の一般名はサクビトリルバルサルタンナトリウム水和物である。 Fantastic fourについては機会があれば別記事で紹介したい。

名前の通りアンジオテンシン受容体拮抗作用とネプリライシン(NEP)阻害作用を有する。NEPはタンパク分解酵素であり、ナトリウム利尿ペプチドやブラジキニンなどを分解するが、そのNEPを阻害することによって血管拡張作用、利尿作用、RAA系抑制作用、交感神経抑制作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用、およびアルドステロン分泌抑制作用を有するナトリウム利尿ペプチド(NP)の作用亢進に寄与すると考えられている。ちなみにNEPはアミロイドβを分解する働きもあり、アルツハイマー認知症(AD)の創薬標的としても注目されている(組織特異性はあるだろうが単純に考えると心不全・高血圧ではNEPを阻害しようとして、ADでは活性化させようとするので矛盾する)。

心不全に対する効果は、ACE阻害薬またはARBを含む既治療下のHFrEF患者を対象とした海外第三相試験(PARADIGM-HF試験)および国内第三相試験(PARALLEL-HF試験)において、エナラプリルと比較してARNIの有効性と安全性が検証された。ともにエンドポイントは「心血管死または心不全による初回入院」である。 高血圧症に対しては国内第三相試験において、オルメサルタンと比較して24時間自由行動下での平均収縮期血圧のベースラインからの低下量が有意に大きかった。

エンレスト®は添付文書によると ・慢性心不全に対しては開始用量1回50mg1日2回、忍容性に応じて1回200mgまで増量 ・高血圧症に対しては開始用量1回200mg1日1回、忍容性に応じて1回400mgまで増量 ・副作用としては低血圧、高K血症、血管浮腫、腎機能障害などに注意 となっている。

参考文献

www.kegg.jp

McMurray JJ et al for the PARADIGM-HF investigators and committees: Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure. N Engl J Med. 2014; 371: 993-1004. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1409077

Tsutsui H, Momomura SI, Saito Y, Ito H, Yamamoto K, Sakata Y, Desai AS, Ohishi T, Iimori T, Kitamura T, Guo W; PARALLEL-HF Investigators. Efficacy and Safety of Sacubitril/Valsartan in Japanese Patients With Chronic Heart Failure and Reduced Ejection Fraction - Results From the PARALLEL-HF Study. Circ J. 2021 Apr 23;85(5):584-594. doi: 10.1253/circj.CJ-20-0854. Epub 2021 Mar 16. PMID: 33731544. https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-20-0854/_article/-char/ja/

https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200603001/300242000_30200AMX00502_B100_1.pdf

bsd.neuroinf.jp